戦前から高まる名勝負の予感。
そして、待っていた劇的なフィナーレ･･
99年秋の天皇賞は、今も色褪せることなく記憶の中に残っている。

当時はまだ外国産馬が出走不可能な時代。
怪物グラスワンダーは毎日王冠を辛勝し、ジャパンＣに照準を定めていた。
またエルコンドルパサーは海外を転戦。
凱旋門賞ではモンジューと接戦を演じた。
マルガイ２強を欠くメンバー。それでも何の不満も感じないほどだった。

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自ら混戦の引き金を引いてしまったスペシャルウィーク。
本来なら断然の主役を務めるべき内国産のエースが、
前哨戦の京都大賞典で７着と大敗。
最終追い切りでも格下を相手に遅れを取り、
「終わってしまった説」も囁かれるまでに評価を落とした。

世代交代の波を一気に荒げたのが、新興勢力の台頭だった。
その筆頭格が朝日チャレンジＣ→京都大賞典を連勝したツルマルツヨシ。
漆黒の馬体に流れる皇帝シンボリルドルフの血脈。
トウカイテイオー以来の大物誕生に期待が膨らんだ。
毎日王冠でグラスワンダーに襲い掛かったメイショウオウドウ。
遅咲きのＳＳ産駒に、素質を爆発させる時が訪れた。
裏街道からは「ノーザンテースト最後の大物」が殴り込みをかけてきた。
福島民報杯を逃げ切って４連勝のクリスザブレイヴには、
どこまでも昇り詰めそうな勢いがあった。

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対する実績組も譲らない。
前年春の天皇賞馬メジロブライトは京都大賞典２着と好発進を見せ、
安田記念でグラスワンダーを破ったエアジハードは予定通りの「ぶっつけ」でも自信を覗かせた。
３歳牝馬スティンガーの果敢な挑戦。
長期ブランクから蘇ったホッカイルソー。
マイルと中距離の間で迷走中だった天才キングヘイロー。
ＧＩなら見限れない善戦マン・ステイゴールド･･
「見出し」になる馬がこんなにもたくさんいた。

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大混戦。最終的に１番人気に支持されたのはセイウンスカイだった。
春の天皇賞でスペシャルウィークに完敗を喫したが、
札幌記念を差し切って新しいスタイルの確立に成功。
二冠馬の実績と幅広い脚質が、群雄割拠の情勢では最も頼りになった。
しかし、いざ枠入りという段階でゲートインを断固拒否。
横山典弘が押しても、なだめすかしても、目隠しをしても、
入らないものは入らない。
これが尾を引いたのかはわからないが、結局５着に敗戦。
その後、長い休養を経てターフには帰ってきたものの、
往年の力は見せることができないままに終わった。

新興勢力はことごとく一流の壁にぶち当たった。
メイショウオウドウは後方のまま14着、
アンブラスモアにハナを奪われたクリスザブレイヴは16着と大敗。
ツルマルツヨシは父が敗れた時と同じ大外枠からのスタート。
中団からレースを進めたものの、脚を伸ばせず。

1000ｍ通過タイムが58秒ちょうどの引き締まった流れが、
ステイゴールドの激走スイッチを押した。
直線で内から先頭に躍り出るエアジハードを抑え先頭に立つと、
悲願のＧＩ制覇が確かに視界へと入ってきたはず。
その瞬間だった。
「あの馬の特徴ある顔が見えたと思ったら、あっという間に交わされた」。
（ステイゴールド騎乗・熊沢重文）
後方でジッと我慢していたスペシャルウィークが、
日本ダービー圧勝の舞台で再び末脚爆発。
1:58.0のレコード（旧東京コース最後の記録）で天皇賞春秋連覇を達成した。
前走の大敗に加え、発表された馬体重がマイナス16キロ。
これで単勝４番人気（680円）まで評価を落とす決定打となった。
しかし、これは白井寿昭師が施した究極の仕上げ。
レースが迫った日の競馬場で乗り運動を行うハードトレは、
後に「白井スペシャル」と称されることとなる。

復活の凱歌を上げたスペシャルウィーク。
勝利騎手インタビューで武豊は、
「最後はサイレンススズカがあと押ししてくれた」と振り返った。
前年、絶対的支持を受けながら４角で「クラッシュ」してしまった戦友を引き合いに出し、
ダービーを勝ったパートナーの勝利を喜んだ。
その後はジャパンＣでモンジューを討ち、
有馬記念でグラスワンダーとわずか４センチ差のデッドヒートを演じた。

□99年10月31日　第120回天皇賞