きょうはキタサンブラックの引退式が京都競馬場で行われました。
その様子は映像でざっくりと見ましたけれど、やっぱりいいもんですね引退式。
これまで張り詰めていた空気がふっと緩むような、そんな感覚。
最近は有馬記念当日に引退式もセットでやっちゃう形式も増えましたが、
こうして後日改めてやってくれる旧来式の方が見ている側は好きですね。
直線でのキャンターも見られるし。

それから北島三郎さんのあいさつ、これがよかった。
内容もさることながら、
80歳を過ぎてあの声の張り、そして堂々たる立ち居振る舞い。
これこそ永遠のスーパースターですわ。
前にも書いたけれど、
芸能界の頂点を極めた方をこれだけ夢中にさせ感動させるなんて、競馬すごい。
その底力も再認識させてくれる、キタサンブラックの快進撃でした。


最初は本当に、「サブちゃんの馬でええのが出てきた」くらいの認識でした。
このブログで最初に触れたのも、スプリングSを勝った時。
それもスローペースを立ち回りの巧さでモノにした程度の評価しかしておらず、
とてもじゃないけど後の成長ぶりなど予見できず。
しかもそれは当分の間、続いたという..w

皐月賞、日本ダービーで敗れ、
人気を落として迎えた秋初戦のセントライト記念を勝った時のことはよく覚えている。
「ああ、バランスオブゲームの再来ですわ」と確信したのがその理由。
これは決して侮っているのではなく、
G1では厳しくても抜群の機動力でG2を勝ちまくれる高性能の持ち主であるという、
最大限の評価をしたつもりだった。

それが菊花賞を勝っちゃうもんだからもうゴメンナサイですよ。
この時が最初に「思ったより強いんやな」と感じた節目だった。

その後は有馬記念3着、明け4歳初戦の大阪杯で2着。
ハナ差で春の天皇賞を制したときも、
「今は競馬の巧さで一線級相手でも通用してるけどハイペースだとどうなるの?」と、
またまた懐疑的な視線を向けていた。

それを覆したのが宝塚記念。
ハイペースで逃げながら、マリアライトやドゥラメンテと大接戦を演じ、あわやの場面を作った。
「この展開でこの粘り腰..うーむ思ったより強いな」の再評価を迫られるレースだった。
それゆえジャパンCで楽々の逃げ切りを決めたときも、
この馬がペースを掌握すれば勝って当たり前ですよねーくらいの感覚で見ていた。
有馬記念での「サトノ軍団」との激闘もまた然り。
サトノノブレスの玉砕アタックを振り切りながら、
ゴール直前までサトノダイヤモンドと接戦に持ち込んだ一戦も、
ペースどうこうで語るレベルの馬でないことを物語っていた。

ところがどっこい。
この時点ではまだ何と「もう一枚ギアを隠し持っていた」のだ。どこかで聞いた風の表現をすると。

5歳春の天皇賞。
休み明けの昇格G1大阪杯を完勝し、さらなる地力強化ぶりを見せつけると、
サトノダイヤモンドへの雪辱と春盾連覇がかかる一戦で、
「伝説のスーパー・キタサンブラック」がついにヴェールを脱いだ。
超高速馬場の京都3200mで[60-72-60]の精密ラップを刻み、3:12.5のレコードで完勝。
死力を尽くしての攻防は最高に見応えのあるもので、
個人的にもキタサンブラックのベストレースがどれかと問われればこのレースを挙げる。
戦前のシチュエーションからレース内容そして結果までがパーフェクト。
その強さは遠くフランスへの想いを駆り立ててくれるものだった。

それだけに、ハードワークの反動で調子を崩した宝塚記念の大敗は痛恨だった。
もしあそこを無事に乗り越えられていたら、というのが唯一の後悔だろうか。
日本での秋3戦もそれは素晴らしいものだったが、凱旋門賞への挑戦はぜひ見たかった。
秋の天皇賞で抜群の重馬場適性を示したのも何とも皮肉な話である..w



最初から抜群に強かったわけではない。
戦うごとにジワジワと力をつけ、その度に何度も評価を上方修正させられてきた。
また、敗戦の中でキラリと光るものを感じさせたのもこの馬の特徴。
全戦全勝のスーパーホースではないが、
脚質も含めてずっと安定して走れる強さがこの馬の最大の魅力だった。

「一度もローテを狂わせずにG1戦線を走破」といえば、
つい先日まではゴールドシップの専売特許だったけれど、そうもいかなくなったw
ずっと予定通りにローテを消化していったのもスターホースの証だし、
最近の潮流である「主戦騎手の都合でG1を使い分けする」ことも殆どなかった。
強いて言うならエイシンヒカリとかち合う16年秋の天皇賞をスキップしたくらいか。

乗り役の話から派生するなら、
暗黒時代から抜け出した武豊騎手を再び輝かせた功績も大きかった。
そういえばユタカさんが引退式で挨拶するのも久しぶりではなかろうか。
「復活の象徴」枠としてはキズナも負けず劣らずだけれども、
コンビを組んで6つもG1を勝った事実を軽く扱うわけにはいかない。
外国人騎手、ノーザンファーム勢としのぎを削る構図も含めて、
非常に絵になるコンビだった。

ターフを去ることでポッカリと穴が空いてしまった風に感じるのは、
それこそオルフェーヴル以来だろうか。
三冠馬・凱旋門賞2着馬と比べても何ら見劣りしないほど、その存在は偉大だった。
おつかれさまキタサンブラック。
その勇姿はひとつの時代を作った名馬として、永く人々の記憶に刻まれ続けることだろう。